成年後見のある事例1:これまで通りの穏やかな生活が出来るように
その方は、とても几帳面でお洒落好きな品のあるご婦人。
クローゼットにきちんと収納された素敵で品の良い洋服からそれがよく分かりました。
私がご自宅で初めてお会いした時も、ニコニコと穏やかな笑顔で出迎えてくださいました。
常日頃から身綺麗な生活をなされていたことが伺えました。
ただ、近くに身内の方がおられず、一人暮らしの自宅のリビングに、
中身の入ったスーパーのレジ袋が足の置き場もないくらい散乱して置かれてありました。
中身を見ると、同じ種類の冷凍食品ばかり。
電子レンジの使い方が分からなくなり、凍ったまま、丸かじりしておられました。
出来ていたことが出来なくなる、そんな状況に心を痛めました。
出会いのきっかけは、
私が所属する高齢者や障害者のサポート団体であるリーガルサポートからでした。
ご自身で自宅の家賃を振り込むことができなくなってしまい、
大家さんから保証人である身内の方に連絡が入りました。
様子を見にきた身内の方が、その方の自宅がゴミ屋敷化しつつあったのを目の当たりにし、
何とかするべく、高齢者の暮らしをサポートする公的施設の地域包括支援センターに
連絡をされました。
一般的には、地域包括支援センターの見守り活動に加え、
ケアマネージャーさんやヘルパーさんの力を借りながら、
何とか一人で生活していけそうであれば、今まで通りの生活を続けることができます。
ただ、この方の場合、家賃の支払といったお金の管理や、
買い物や食事も満足に行うことが出来ず、
悪徳業者の訪問販売被害に遭われておられる形跡もありました。
更には徘徊が頻繁になり、ヘルパーさんがご自宅に伺っても家を空けていることも多く、
身内の方も近くにお住まいではないので、
地域包括支援センターのサポートだけでは到底生活していけません。
こうしたことから、成年後見人を代理人としてつけてもらうサポートが必要だと
地域包括支援センターが判断し、リーガルサポートを経て、私に連絡が入りました。
その後、親類の方やケアマネージャーさんのご協力のもと、
家庭裁判所に成年後見人を選んでもらう申立を行いました。
そうこうしている間にもその方の徘徊は酷くなり、
ふらりと電車に乗って
1時間以上もかかる知らない土地に行ってしまうこともありました。
幸いにもそのときは警察官に保護して頂き、
ケアマネージャーさんが迎えに行くことが出来ましたが、
予断を許さない状態でした。
いざ成年後見人がついたあとも、24時間、見守りをすることはできず、
自宅での一人暮らしは難しいことから、入居可能な老人ホームを探し始めました。
ケアマネージャーさんからは
高齢者専用賃貸住宅(通称、高専賃)か
特別養護老人ホーム(通称、特養)を勧められました。
まず、高専賃をいくつか見学にいきましたが、
場所が辺鄙であったり、入り口のセキュリティが甘く、
徘徊を完全に防げないことや、部屋が異様に狭い、
などの理由でいいところには出会えませんでした。
一方、一生涯入居することが出来る特養は、
今の高齢化社会では入居希望者が多く、
何年も入居を待たなければならないと言われていたりもします。
地域包括支援センターの方には、
すぐに入れそうな特養があるとのご紹介もいただきましたが、
施設の清潔さや明るさ、職員の方の対応の様子など、
自分の親が入ってもいいかなと思えるぐらい納得のいく環境の良さを求め、
色々な特養を見て回りました。
そして、都心の自宅とは遠くかけ離れた郊外でしたが、
満足のいく特養に出会うことになります。
当然、すぐに入居できるはずがありません。
しかし上記のような状況であることを訴えに訴えた結果、
奇跡的にかなり早くで入居させてもらえることになりました。
入居後、お顔を見に行ったとき、
「窓から見える山がすごく綺麗で気持ちがいいわ」と
ニコニコと穏やかに話されました。
その方のお気に入りだと言う、刺繍の入った綺麗なピンク色のシャツをお召しになられ、
「温かい栄養のある食事を残さず召し上がってる」と施設の方からお聞きしました。
「その方らしい生き方、余生を穏やかに過ごしてもらいたい」
という想いが形として目に見え、
お手伝いして良かったと、心からホッとした瞬間でした。